わたしのとっておき
『ひとはなくもの』
みやのすみれ/文 やべみつのり/絵
作品概要、あらすじ
みやのすみれ/文 やべみつのり/絵『ひとはなくもの』(こぐま社 刊)
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ある日の片付けの時間、Aちゃんが少し悲しそうな顔をして「先生今日の集まりでこれ読んで」と私のところに一冊の絵本を持ってきました。それは、泣いている女の子の表紙の「ひとはなくもの」という絵本でした。私はAちゃんの表情から、何かあったのかな?と思いましたが、何も聞かずに帰りの集まりでその絵本を読むことにしました。この絵本は泣き虫なすみれちゃんが様々な気持ちで泣く場面が描かれています。でも、決して悲しいお話ではなく、子どもの心に響く言葉で語られています。それは、この絵本が、実際に小学生のすみれちゃんの実体験から作られたお話だったからかもしれません。
翌朝Aちゃんが「昨日ね、片付けの時に本当は嫌なことがあったの」と私に話してくれました。「そうだったのね、だからあの絵本を持ってきたの?」と聞くと、恥ずかしそうに頷きました。泣いている表紙の女の子。心配になるほどのその泣き顔の絵本。Aちゃんにとっては自分の気持ちと重なったのかもしれません。きっとその時、この絵本を通してAちゃんの悲しかった気持ちは慰められたのでしょう。
子どもの心にこんなふうにも寄り添ってくれる、そんな絵本の力を教えてもらったAちゃんとの思い出の一冊です。
こどもだって、もちろん大人だって
「人はなくもの」
涙涙なあの子にも、最近泣いていない大人の方にも。
涙が出そうな時にも、涙を拭いて笑顔になった後にも。
青山学院幼稚園教諭
近藤 希望